骨なしチキン

L:Q/トワ主/二次創作/捏造妄想

復刻クリスマスイベSS【L:Q】

復刻イベのサンタガール以下略、トワ主SSです。所謂二次創作ですのでそういったものが大丈夫いえすおっけーな方はよろしくどうぞ。

Q. どうして新年早々にクリスマスの話してるの?

A. 書き終わんなかったんだよ……。あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします。へへっ。

 

ホテルの前で、というかわざわざあの寒い中外で待ってたトワダさんにあまりにもグッときたというだけの話です。こんな感じでひとりぼんやり考えごとしてたらいいなあ。

 

 

 

 

 しんしんと、雪が降っている。

びゅう、と強く吹き付けた寒風に思わず首を竦めると、傍に立つガードマンから気遣わしげな視線が送られる。それに気付かない振りをして、先程と同じように正面を行き交う人々に目をやった。うるせーな寒くねえよべつに。嘘だけど。

(ったく……おっせえな)

クリスマスだと言うのに――いや、クリスマスだからこそだろう。往来の人通りは激しく、いくつもの顔が通り過ぎてゆくが求める姿は未だそこにはなく、底冷えする寒さも相まって舌打ちの一つでもしたくなる。しんと黙ったまま何の連絡もないスマホの画面を手持無沙汰に撫でてポケットに戻し、落ち着かない心地のまま再び視線を眼前に戻した。

(……くそっ、せめてもっと早く連絡の一つでも入れろってんだ、あのアホ!)

 

“ナナシさんのお手伝いで、皆さんにプレゼントを配っているんです”。

ですからあのう、今ご在宅でしょうか、と、そう聞かれて思わずため息を吐いた俺を誰が責められるだろう?いるよ、と呆れ交じりに答えてみればあっさり明るく、では向かいますね、二十分ほどで着きます、という返事と共にぶつんと切られた電話と、暗くなった画面。

クリスマスまであの小学生は何をやっているのかと頭を抱え、取りあえず迎えの準備でもと立ち上がると、今まで気にも留めていなかった窓の外が視界に入って思わず目を見開く。

(おいおいおい……雪降ってんじゃねえか!)

大慌てでホテルのロビーから飛び出しタクシーを手配しかけて、このままだとすれ違う可能性の方が高いことに思い至る。ああもう!あの小学生は全く、他の奴のところに行ってたんなら部屋を出た瞬間にでも連絡を入れりゃこっちで迎えの一つも寄越してやるのに、何を馬鹿真面目に歩き回ってやがるのか。

……いや、分かっている。そんなの俺以外だってそう思った筈だ。それなのにこうして通りをほっつきまわっているってことは、あいつが断ったってことだろう。それか自分の頼まれごとだからしっかりやらなくちゃ!みてえな顔されて飲み込んだってとこか。……後者だな、と思う。多分俺も、まあ頑張れよって送り出しちまう気がするから。

(あー、らしくねえこと考えたな。ま、そんなにかかんねえだろ……多分)

舌打ちをしてくるりと引き返せば、音もなく開いた自動ドアからふわりとロビーの暖かな空気が漏れる。それだけで思わずほっとして、そうしてはた、と立ち止まった。

(……たかだか一、二分でここまで冷える寒空の下を、あいつは歩き回ってんだよな)

そう思うと、自分一人だけ空調の効いたホテルの部屋でぬくぬくと待っているのも気が引ける。いや、小学生のことだから自分を棚上げして「どうして中にいないんですか!寒いでしょう!」なんて怒ってきそうなモンだが、それを言うならお前もだって話で。

結局、「中でお待ちになってはいかがですか」と気遣わしげに尋ねて来たボーイに手を振り、身を切るような寒さの中入り口の近くで忠犬ハチ公よろしく健気にも立ち尽くしている、というワケだ。

 

「……あーもう、さっっみいな、クソ」

ため息を吐けば白くふわりと漂い、それを目で追えば視界いっぱいにひらひらと舞う雪が忌々しい。別にそれ自体は嫌いでも好きでもない、室内にいれば、あるいはこんな状況じゃなきゃクリスマスに雪ってのも出来過ぎてていいと思うくらいの情緒はある。けれど小学生がどうせ傘もささずにこの中をうろうろしているのかと考えると、いいからとっとと止めよと苛立ちが先に来た。……柄にもなく。

そうして――落ち着かないのが心配だからってだけじゃない、というのも、柄じゃない。

(……、チッ)

長い黒髪が視界を横切り、咄嗟に視線で追い――ため息を落とす。別人だ。普段なら決して見間違えなどしないのに何で、と内心で愚痴ったところで、そうしてバツ悪げに視線を逸らすのが今の一度きりでないこと。……それが答えの様なもので。

「浮かれてる、ってか」

思わず零した言葉はまるで自嘲のような、呆れのような響きを伴っていて、情けないことこの上ない。

認めてしまえばあっけない話だ。あいつがわざわざ会いに来る――クリスマスに。それが心を浮足立たせている。そういうこと。

(ったく、この手のイベントなんて今まで気にした事なんざ無かったってのに……)

ベガスにいた頃は年がら年中カジノに入り浸り、今日はちょっと街が騒がしいな、なんて思うくらいだった。それが今じゃどうだ、あのけったいなネコが何かにつけてゲームを開き、……彼女がその度に楽しそうにしてるもんだから、すっかりカレンダーが頭に入っている始末。今日のクリスマスだって、本当はこちらから誘ってやろうか、なんて考えていたと知ったら、あいつは驚くだろうか。全く、あまりの変わりように、自分でさえ笑えてくるのだから救えない。

「はー……」

ため息をこぼし、その中にさえ妙な甘さが混じっている気がして思わず苦笑する。

……自身の変化を厭う気持ちが無いと言えば、それは嘘だ。とうの昔に手懐けた筈の感情を、いともたやすく揺さぶる彼女に焦ることだってある。ただ、思わず目を背けかけて――それでもまた引き戻されて、どうしたって傍に置いておきたくなるのだから、きっともう、そうするしかないのだろう。

 

だから。

 

寒かろうが凍えそうだろうがこうしてお前のことを待っててやるし、出迎えてもやるし、俺に一番に会いに来なかろうがクリスマスだっつーのにネコなんかの使いっぱしりしてようが、全部許す。許してやるから。

 

「早く来いよ、バカ」

 

小さく呟いた言葉が白い吐息に変わって――ホテルの前をフツーに通り過ぎるあいつを慌てて引き留めるのは、もうすぐのことだった。