骨なしチキン

L:Q/トワ主/二次創作/捏造妄想

ねこの日トワ主SS【L:Q】

ねこの日!!でした!!ね!!

イベントごとに間に合わないのはいつものことなので流してやってください。

所謂二次創作というやつです。よろしければ以下よりどうぞ。

 

 

ねこの日でトワ主SSです。

あんまりねこが関係なくなってしまった……。

 

 

夕食の洗い物を終えて戻ってくると、もはや見慣れてしまった光景ーーソファの上にスタイルのよい身体を惜しげも無く伸ばして寛ぐトワダさんの姿ーーが飛び込んできて、思わずため息をつく。ここは一応私の部屋であって、彼は飛び切り質のよいホテル(一泊幾らなのか、は恐ろしくて聞けていない)をキープしている筈なのだけれど、この部屋の何をそんなに気に入ったのか、しょっちゅうやって来てはこんな風に気の向くまま過ごしている。それこそ、この空間に彼がいることに違和感を覚えなくなってしまったくらいには。
「本当、自由気ままですよね……」
ふと目をやったカレンダーの日付、脳裏に浮かんだそれと目の前の彼を思わず重ねて呟くと、私の視線の先を辿って言葉の含みに気付いたのだろうトワダさんは、ふ、悪戯っぽく笑ってみせた。
「……ニャン?」
長い指先を胸の上で丸め、目を細めて首を傾げる。まるで甘えるネコのようなその仕草が妙にサマになっているものだから笑えない。いい大人が可愛くないですよ、とは言ってみるものの、普段の彼を知っている分こんな事をされるとほんのちょっとだけきゅんとしてしまうのが憎らしく、ええい騙されない騙されない、と頭を振った。いつだって隙を見せればあっという間に彼の手の中なのだから。
む、と顔を顰めた私の内心なんて、きっとトワダさんはお見通しなのだろう。バレバレだぞ、と余裕そうに笑われているのが悔しくて、そろそろとソファの側に近寄る。辺りを見回してサイドテーブルの上に飾っておいたストラップの小さなぬいぐるみを手に取ると、少し屈んで、なんだなんだ?ときょとんとしている彼の鼻先にぷらん、と下げた。
ゆらゆら。
「……おい」
「……」
くるくる。
「やめろっつーの」
「!」
まるでじゃらすように目の前でちいさく動かしていると、意図に気付いたトワダさんが鬱陶しそうにそれを指先で払おうとした。咄嗟に引き上げると、たまたま運が良かったのか、綺麗に彼の手が空ぶって、中途半端な位置でゆらゆらとぬいぐるみが所在無さげに揺れる。暫しの沈黙。
「……」
「……うちに居過ぎて鈍っちゃいましたか、野良猫さん」
「ぐっ……」
ショックだったのか、微妙な顔で固まった彼に思わず吹き出して笑うと、珍しくありありと悔しさを出した表情でぎっ、と睨まれる。タイミングが良かっただけの話なのだけれど、案外負けず嫌いな彼には悔しかったのだろう。
「……あっ!何するんですか、もう」
可笑しくてくすくす笑っていると、トワダさんはち、と舌打ちをひとつして私の手からぬいぐるみを奪う。腹いせのようにサイドテーブルにそれを放り投げる姿がまるで子どものようで、乱暴に扱わないでください、と怒るよりも微笑ましさが勝ってしまった。この人は普段私よりずっと大人なのに、時折こういうことをするのが可愛らしい、と思う。
「……"恋人と行く春のデートスポット特集"」
「え?……!」
ニコニコする私を悔しそうに見つめていた彼が、ふと表情を変えてぼそりと呟く。はっとしてマガジンラックを見ると不自然に空いたスペースが一冊分。視線を戻せば何処に隠していたのか、彼は私がこの間買ったばかりの雑誌をニヤニヤしながらパラパラとめくっていた。あちこちに自分で貼った付箋が覗いていて、それを愉しげになぞる指先に勢いよく頰へ熱が昇っていく。
「へえ、川沿いで花見。夜間にはライトアップもアリ。仕事帰りにもバッチリ、と」
「っ、また勝手に読んでましたね!?」
「置いとく方が悪いんだろ?」
「これ、ちゃんとしまっておいた筈なんですが……」
私がじっとりと睨むと、トワダさんは数秒黙ったのちにふいっ、と視線を逸らした。
「……にゃーん?」
「露骨に適当な誤魔化しをしないで下さい!」
俺今ネコなんでちょっと分かりませーん、とでも言いたげに雑な真似事をする彼の手から雑誌を奪う。あ、と後ろで声が上がるのを無視してラックに戻しかけて、もう見られてしまったしいいか、とそのまま読む事にした。そういえば途中だったし。彼が突然押し掛けてきたので、それっきりだったのだ。
「さっきのページ、随分ご熱心に付箋が貼ってあったけど。なあ、誰と行くつもりなんだ?」
ざっと紙面を眺め、やっぱり春先はお花見かなあ、まだ随分と先の話だけど。と考えていると、暫く大人しくしていた彼がソファから声を掛けてくる。仕事帰りなら相手は限られるよな?なんて言う楽しそうな声色からして結論は分かりきっているのだろうに、わざわざ聞いてくる辺りこの人は本当にいい性格をしていると思う。
「おっと、無視か小学生?いい度胸じゃねえか」
「……」
「よし。その態度はお仕置きして欲しい、ってコトでいいな?」
「すみませんが私、ネコ語はちょっと分からないので!」
不穏な気配を察し、後ろから伸びてきた手をぱしん、と雑誌で叩く。軽めにしたつもりだったが、妖しい単語に動揺したせいかいい音がした。ちょっとだけ。……ちょっとだけだ、たぶん。
「痛って!かっわいくねえなお前!つーか何がネコ語だ!」
「……わー、こっちのカフェもいいなあ」
危うく"そういう"雰囲気になりかけた空気が霧散したのを感じて、こっそりほっと息をつく。後ろでわあわあ騒ぐ声に聞こえない振りをしようと紙面を追っていると、つい、いつの間にか夢中になって読みふけってしまう。それでもやっぱり目に付くのは桜が鮮やかに照らし出される先ほどのページで。
「ハイハイ、お終いお終い」
「あ!」
じっ、とそこを眺めていると、不意に後ろから伸びてきた手に雑誌を奪われた。そのままばさり、と床に投げ出されたそれを思わず目で追った瞬間身体が引き寄せられる。そうして視界が反転したかと思えば、背中にソファ、目の前には彼。
「何するんですか、びっくりするでしょう……」
「俺がいるってのにお前が雑誌なんか読んでるからだろ」
俺を無視とは生意気だ、ちゃあんと質問に答えろよな。横暴に言い放つ彼に、勝手に押し掛けてきたくせにと問答するのは無意味だ。「俺が来て嬉しいだろ?」とか何とか言われるに決まっているし、……それは確かに事実でもある。悔しいことに。
「で?あの場所、誰と行くって?」
「……」
「聞こえねえならもっと近くで言ってやろうか」
「!トワダさん以外にしま、……っ」
ぐっ、と唇に指先が当てられて、思わず口をつぐんだ。いや、噤まされた。すうっと彼の目が細まり、鋭く艶やかに色味を増した瞳に射抜かれて、背筋にぞわ、と痺れが走る。
「あーんまり可愛くねえことばっか言ってると……食っちまうぞ?」
「……、っ」
にっと笑った口元から犬歯が覗き、低い声が耳を擽る。ぎゅう、と眉を寄せた私をじいっと見下ろして、その親指がゆっくり、つ、つつ、と唇をなぞり上げていく。
端まで滑らせた指がそのまま頰に向かい、大きな手のひらに顔を包まれた。ゆるりと顔が近付いて、コツ、と額同士が当たる。
「誰と、行く、って?」
「……誘ったら、来てくれるんですか……」
ここまで来たらもう降参だ。もう好きにしてください、と半ば自棄になって言うと、彼はくつくつと喉を鳴らして笑った。
「花見だろ?興味はねえな。人も多いし、うるせーし、疲れるし」
「やっぱり……」
いいですよ、どうせ私が見たいなあって思ってただけですし。
む、と唇を尖らせて拗ねると、トワダさんはばぁか、と私の頰を軽くつねった。
「無いは無いけど……ま、お前次第ってトコ?」
「……私次第?」
きょとんと目を瞬かせると、そ、と言って彼は笑う。
「誘ってみな?俺が行きたくなるように。上手に出来たら考えてやるよ」
「っ、な」
「ホラ、どうした?行きたいんだろ?」
さ、誘うって。思わず口籠もる私に構わず、トワダさんは涼しい顔をしている。そんな事を言われたって、彼が好む駆け引きなんて私の最も不得意とするところ。ましてや相手はトワダさんだ。半端な演技じゃ駄目だしされるだろうし……まあ、彼ならなんだかんだ言って上手く出来なくても結局一緒に来てくれる気もするけれど。
それにしたって、トワダさんが行きたくなるような誘い方。誘い方?
お酒が飲めますよ、は、別にここでなくてもいいし。ライトアップされてるの、きっとすごく綺麗ですよ、も、あんまり効果がなさそうだ。それから、ええと。暫くぐるぐると考えて、ため息をつく。
……駄目だ。さっぱり分からない。
「あの、トワダさん」
「ん?」
悩む私をニヤニヤと眺めていたトワダさんが、呼びかけにこてん、と首を傾げる。
「良く分からないんですが」
「おい」
がくっ、と見事なリアクションで崩れ落ちかけた彼を見上げる。ったく、相変わらずマジで雰囲気ってヤツが、と脱力した表情で唸るのに申し訳なくなりながら、その袖をくい、と引いた。
「なので、普通に誘いますね」
「は?」
「トワダさん、一緒にお花見しませんか」
勿論、まだもう少し、先のお話になってしまいますけど。
おずおずと切り出すと、彼はぱちぱちと瞬きをした後にぐ、と微妙な顔をする。
「……まーたいつもの連中と一緒に仲良しこよし、ってオチじゃねえだろうな?」
「いつものって、ああ、皆さんのことですか?それも考えましたけど、仕事上がりだと調整が難しいでしょうし……」
「ふーん。一人二人なら何とか合うんじゃねーの?」
「……もう!」
行きたいのか行きたくないのか。そもそも私に誘わせたいんじゃなかったのか。どうして他の人の話が出てくるのか。何やら珍しく色々と突っ込んでくる彼の頰をぺち、と両手で包むと、切れ長の目がまるく見開かれる。
「今、私は!トワダさんを、誘ってるんです!」
他の誰でもなく!
恥ずかしさを堪えて言う。ドキドキしながらそのままじいっ、とトワダさんを見上げていると、少しだけ眉を寄せて彼がふい、と目を逸らした。ぼそり、と彼が呟く。
「……仕方ねえな。そこまで言うなら行ってやる。」
「いいんですか?」
「どのみちほっといてもお前一人で行くんだろ?小学生だけじゃ心配だしな」
「またそういう言い方を……」
色よい返事に嬉しくなるものの、いつものように意地の悪い事を言われ、思わず頰を膨らませる。けれど、そのまま身体を起こして床に放りっぱなしだった雑誌を拾いに行った彼の横顔ーー正確には、髪に隠れた耳、に目が止まる。うっすら、ほんのり赤く染まっている、ような。
(……もしかして、照れてる?)
途端に、ぶっきらぼうな言い方も軽口もすべてその誤魔化しのように思えてきて、ゆるゆると自然に頰が緩む。
「なーにニヤニヤしてんだ」
ぱち、と口元を覆うも遅く、嫌そうな顔をしたトワダさんに雑誌で軽くぽん、と頭をたたかれる。全然痛くない。むしろくすぐったいというか、なんというか。
「お花見できるのが嬉しいだけですよ?」
「……あっそ。お手軽な女だな」
「ふふ。何とでもどうぞ」
何を言われてもくすぐったいばかりで、とうとう吹き出してしまう。くすくす笑う私をトワダさんは複雑そうな顔で眺めていたけれど、緩む頰もそのままで「楽しみですね」と言うと、呆れたように、そうだな、と笑ってくれたのだった。